四高祖の不思議な伝承
昭和5年2月に杉本伊右衛門氏が施主となり第16代堀尾宣静法尼により作成された『祖師堂沿革及四高祖其の他略歴』によれば、次の様な伝承がある。
「今、御尊像(ごそんぞう)の御面影(おもかげ)新しく拝するが、元は黒く燻(くすび)びたるを思ひ、御洗濯申上げたる際、彩色したるが故なり。此尊像の霊験に付、一縷(つけ、いちる)を記さん。
「加藤宣妙尼の代に御尊像を御洗濯せんとて、御魂(みたま)を抜き奉り、一之宮の仏師屋へ送りしに早速出来(さっそくでき)ざるに依り、再三催促(さいさんさいそく)して、弟子妙縁尼(でしみょうえんに)は、其(その)、木像を首に掛け喜び仰へ帰りしに、師尚(しなお)、宣妙尼は、是を見て此御木像は御顔が違ふなり、直様(すぐさま)、取替へ来れと申し付けられば、折返し仏師屋に至り、其由(そのよし)申けるに、仏師屋の云う様、実は、彼(か)の木像を預りてより、家内(かない)にて何となく賑(にぎ)はしく、静かに聞けば御木像の読経の声なりし、又、木像を預りてより以来、不思議にも非常に繁盛にて、毎日忙しき計りなり故に、此、御木像は、我家に残し置かん者と斯く致せしなりと、自白し謝罪して、元の御木像を返したる事あり。
又、宣妙尼の老父が当庵へ留守居(るすい)に来る度毎(たびごと)に、御祖師様の御読経が初つた宣妙早く来れと云う事、度々ありしと云ふ」
此、話は、現在の隠居(昭和5年当時)妙縁尼僧の語らるる處(ところ)にして、此の事、空しからず、其の他、此尊像の顕著(けんちょ)なる御利益を受けたる者、多々あるは能く人の知る處なり。此の四高祖御拝礼の輩(ともがら)は、宗祖大菩薩、御在世の思ひをなし奉るべし現象の利益ある事疑なし。末法万年(まっぽうまんねん)の末迄(すえまで)も、此御恩徳(このごおんとく)に浴(よく)し、上下万民共に、快楽(けらく)を得、高祖の御利益無窮(ごりやくむぐう)なる事を記す者なり。
以上、不思議な伝承であります。当時の宣静尼の、趣ある御文章をそののまま記載しました。